
一切経山について
所在地:福島県
山系:奥羽山脈
標高:1,949m
選定:東北百名山・うつくしま百名山
4月下旬に磐梯吾妻スカイラインの冬季通行止めが解除されると、浄土平には雪の吾妻山に登るために多くの登山者がやってきます。以前の記事で述べた通り、多くの人のお目当ては一切経山から眺める五色沼、通称「魔女の瞳」です。
冬の吾妻連峰は一面雪に覆われ、五色沼の湖面もまた氷雪の下にその姿を隠してしまいます。時は流れて雪解けの季節、湖に張っていた氷が溶けはじめて真っ白な残雪に覆われた外輪山の中央部にコバルトブルーの神秘的な輝きが少しずつ顕になってゆきます。
前回の記事より抜粋。

ということで今回は4月の終わり、魔女の瞳が姿を見せ始める時期に合わせて一切経山に登ってきました。
浄土平登山口ルートについて
登山ルートは浄土平から一切経山に登り鎌沼を一周して帰ってくるという前回とほとんど同じものです。ただし冬山ですからアイゼン、チェーンスパイクなどの携行は必須です。浄土平から酢ヶ平の辺りまでは比較的斜度が高い上に朝早く出発すると雪が凍っており、万が一滑ったら北東方向の渓谷に吸い込まれていくので気を付けましょう。雪山に慣れていない場合は少し陽が出てから登った方がしっかり踏み込めるので安全だと思います。酢ヶ平避難小屋から一切経山までの道は冬だと目印が少なく道迷いのリスクがあるのでしっかり地図を確認しましょう。鎌沼のあたりは既に木道が露出している部分も多かったのでアイゼンやストックで傷つけないように気をつけます。
本当は東吾妻山に登って戻る予定だったのですが暗い時間帯に出発したせいかサングラスを忘れてしまったので、雪目にならないように急いで下山することになってしまいました。リカバーの効きやすい短めの山行でミスをしておくことでレベルの高い山に行ったときに初歩的なミスをせずに済むとポジティブに考えておきます。

磐梯吾妻スカイライン開通後も残雪期はスリップ防止のために17:00~翌7:00の夜間通行止めになっているので、出発時刻や下山時刻に注意してください。
一切経山 / 白雀さんの一切経山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
前日に吾妻小富士登頂
登山前日です。ストックを新調したので試しに吾妻小富士に登ってみました。

この巨大なすり鉢はいつ見ても大迫力です。

浄土平の方を眺めると明日歩く予定の登山道も見えました。浄土平周辺は雪が無く途中の上りから雪道になっており、一切経山の上の方は夏道を歩けそうです。こんな感じで残雪期は登山道にどの程度雪が残っているのか把握しておくと装備が整えやすくスムーズに歩けます。浄土平ビジターセンターでも登山道の状態について聞いておくと尚良いです。

磐梯吾妻スカイラインは夜間閉鎖中なので浄土平駐車場で車中泊して3時頃に起きることにしました。夜間は氷点下5℃ぐらいまで冷え込む上に車の中まで硫黄臭が充満しており、人によっては満足に眠れる環境ではなさそうです。
浄土平から一切経山へ
登山当日です。そんな状況下でも爆睡してしまい予定から15分ほど遅れて登り始めます。

浄土平から酢ヶ平までの上りは急なのでチェーンスパイクを付けて進みます。日の出前なので雪の表面がカチコチに凍り付いていて緊張感があります。前爪がしっかりついているチェーンスパイクを持って行ったので登れましたが、足裏だけの軽アイゼンとかだと厳しそうな道です。光源が変な感じですがランタンとヘッデンの二台体制で照らしているからです。

足を滑らしたら右側の川底に落ちて雪解け水と一緒に浄土平まで流されていくことになるので絶対転ばないように気を付けます。

木道にたどり着きました。酢ヶ平避難小屋の分岐を右に進んでいきます。

一切経山に向かうあたりの雪道はちょっとややこしいので慎重に進みます。

一切経山の上の方はもう雪が解けています。

出発前にもたもたしていたので頂上に着く前に日が昇っちゃいました……雲が厚くていずれにせよ日の出は見えそうになかったのでまあいいでしょう。

朝の吾妻小富士と福島盆地。福島市の北の方は霧がよく出るんですが今朝も白くかすんでいるようです。

朝陽に照らされる道を歩いていきます。

一切経山の頂上もオレンジ色に染まっていました。

残雪期の五色沼
頂上を通り過ぎて北の方に歩いていくと五色沼が見えてきました。まだ4月なので魔女の瞳は厚い氷に覆われています。この日の天気はそこまで良くなかったのですが展望が良く、遠くには蔵王や月山、朝日といった東北の名峰が立ち並ぶ贅沢な景色が楽しめました。

西大巓まで伸びる吾妻連峰の稜線は真っ白に染まっていてまだまだ雪山の様相です。ひょっこり顔を覗かせる飯豊が愛らしいです。

しばらく太陽は雲の中に居そうなので、陽が出るまでコーヒーでも飲んで一休みしようと思っていると家形山の方からソロの方が登ってきました。自分以外に日の出前から一切経山に登る人がいるとは思わず、東側の不動沢登山口から登るキツめのルートを残雪期に登る人がいるとも思わなかったので二重で驚きました。

不動沢登山口から駱駝山を通って一切経山に登るルートはこの時からちょうど1ヶ月後の5月終わり頃に歩いてみたので後日、記事にしたいと思います。
五色沼を眺めながらのんびりしていると雲が流れて陽が差してきました。よく見ると縁の辺りは少し氷が割れてきているんですね。開眼も近そうです。



雪と鎌沼
そろそろ鎌沼の方に向かうことにしました。振り返るとすっかり朝の空に様変わりしています。

新緑と雪の色が爽やかな春の景色です。右のほうに見える鎌沼の向こうをぐるっと回って帰ります。

陽が出てきたのでチェーンスパイクが無くても滑らず楽に歩けます。

酢ヶ平から見る前大巓の山容が端正で好きなんですよね。山スキーの名所らしいのでもう少し雪がある頃に来て登ってみたいです。

鎌沼は少し氷が張っていました。相変わらずすごい透明度です。

逆さ東吾妻山が綺麗に見えました。

鎌沼の西側は結構雪が残るので池ポチャしないように通行します。丁寧に竿を立ててあるのでこれに沿って歩けば安全です。

この辺りは特に幻想的で歩いていて楽しいです。こんな景色が福島市内から車でちょっとの所にあるというのが驚きです。


姥ヶ原分岐に来ました。本当ならここから東吾妻山に行くはずだったんですが、サングラスを忘れたので泣く泣く浄土平に戻っていきます。

道中で吾妻小富士が見えてくる辺りは何度歩いていてもテンションが上がってきます。雪が多い上に急な下り坂なので転ばないように注意です。



半ば滑り降りるように歩き抜けて浄土平の近くまで来ました。すごい量の雪解け水がたまっていて足場がビシャビシャでした。雪山なので当然ですがゲイターも装備した方がいいです。

浄土平に戻ってきたので最後に一切経山を見上げて一枚。朝早く出たので降りてきてもまだ朝の9時でした。

あとがき
残雪期の一切経山はコースタイムが短く勾配もきつくない上に春~秋とは趣の異なる、氷に覆われた魔女の瞳を堪能できるという特別感もあり、お手軽でありながら充実した山行になりました。次登るときは魔女の瞳の開眼に合わせて訪れてみたいと思います。今回は日の出前に登り始めたので夜闇の中で孤独な登山でしたが、太陽が出てからは登る人も多くトレースもあるので雪山デビューに一切経山というのも良さそうです。