【阿武隈】高柴山〜浮金登山口から登るヤマツツジの名所〜【5月】

高柴山について

高柴山の基本データ

所在地:福島県

山系:阿武隈山地

標高:884m

選定:うつくしま百名山

高柴山は阿武隈山地中央部の田村市と小野町の境界に位置する山です。阿武隈の山らしく、なだらかな山容に平坦な山頂部を持ち、登山道はよく整備されていて登りやすい里山です。そんな高柴山を阿武隈屈指の名峰たらしめているのが山頂付近に自生する広大なヤマツツジの群落です。5月中頃から約3万本とも言われるヤマツツジが花をつけはじめ、山一面を真っ赤に染め上げていきます。頂上に建てられた展望台からは阿武隈の山々をバックにヤマツツジ咲き誇る山肌を全方位に見晴らす大パノラマを楽しむことができます。

高柴山のヤマツツジ

高柴山は昭和初期まで農耕馬の放牧が行われていたため、他の木の新芽が食べられてヤマツツジの群落が形成されたと言われています。この話についてですが強い毒性のあるレンゲツツジならいざ知らず、ヤマツツジは毒性がほとんど無いとされているにも関わらずどうしてこれほど繁茂するのか不思議に感じたので少し調べてみました。

ヤマツツジは人間にとってはほぼ無毒といっていい植物であり、花を採って蜜を吸ったことがある人もいるかもしれません。(レンゲツツジやその他園芸種のツツジ・シャクナゲには強い毒を持つものがあるのでおすすめしません。)馬に対する毒性についての文献は見当たりませんでしたが、『林野植物に対する放牧家畜の採食嗜好性』という論文では牛、馬、緬羊のヤマツツジへの嗜好性については不食と書かれており、少なくとも家畜が好んで食べるものではないようです。

ヤマツツジと放牧について調べてみると、

ヤマツツジ・ミツバツツジは毒性は強くないが,生活力が強くて,刈払いを繰返しても,枯れにくく……

『日本の山地酪農』より抜粋

という記述がありました。合わせて考えると、馬の採食圧により山頂部の植生がシバ草原へ偏向遷移(植生遷移が本来とは異なる方向に進む現象)し、そこに繁殖力が強い不嗜好性(採食されにくい)植物のヤマツツジが群落を形成したものと思われます。

浮金口コースについて

登山口は浮金口、牧野口、門沢口の3ヶ所あります。いずれも整備が行き届いており山頂までは1時間未満の道のりなので、どこから登っても問題なく山頂にたどり着けると思います。今回は西麓の浮金口から山頂を目指します。浮金口ルートにはきつい登りが一切なくハイキング気分で頂上に向かうことができるので、山に慣れていない方にもおすすめです。道中に太鼓石や御神水といった寄り道スポットがあるのも特徴です。頂上付近には道という道がなく広場のようになっており自由に歩き回ることができます。

高柴山 / 白雀さんの高柴山の活動データ | YAMAP / ヤマップ

高柴山の登山口がある浮金地区には石材店が数多く存在します。主に高柴山の北西に位置する黒石山で採れた斑レイ岩を石材に加工しており、中でも品質の高いものは高級黒御影石である「浮金石」として珍重されています。登山口駐車場までの路傍には未加工の石材が置かれており、県下有数の石材産地の雰囲気が感じられると思います。

浮金口駐車場から見た黒石山
浮金口駐車場から眺める黒石山

登山記録

浮金口から頂上へ

平日昼間の浮金口駐車場です。ヤマツツジ最盛期の週末には2ヶ所の駐車場が満杯になることもあるようです。

浮金登山口駐車場

入り口からいきなりツツジが咲いていました。花が桃色でおしべが5本なのでミツバツツジっぽいと撮っているときは思っていたんですが改めて見るとちょっと斑点が濃すぎる気がします。

登山口のツツジ

濃厚な桃色の花弁が木漏れ日に照らされてネオンライトのように輝いていました。

高柴山登山口の標柱から先は本格的な山道になります。

浮金口登山口

少し萎びたシロバナエンレイソウ。福島では4月に咲く花なので暑そうにしてます。

シロバナエンレイソウ

太鼓石の分岐です。折角なので寄り道していきます。案内板に書かれている通り太鼓石は源義家にまつわる史跡です。いい感じに苔むしていてかっこいいです。上の方に丸く苔が付いてるので、ちょっとアンパンみたいにも見えます。

太鼓石案内板
太鼓石

道中にはチゴユリが群生していました。俯き加減に花をつける奥ゆかしい花です。

チゴユリ

本道を進み御神水の分岐に着いたのでこちらも見ていきます。御神水への道は杉林になっていて少し雰囲気が違います。

御神水分岐
御神水道

御神水に着きましたがこの時は水が出ていませんでした。傍には丸い大岩が鎮座しており、こちらも何か謂れがありそうな立派な姿です。

御神水

道中にも疎らにヤマツツジが咲いています。入り口で見たピンク色のツツジと比べると色が全く違いますね。山に自生するヤマツツジはこのような紅色の花が一般的です。

本道に戻りしばらく進むと森が開けてきて、足元も砂利道に変わってきました。

山頂への道
東屋

ここまで来たら山頂はすぐそこです。本道から逸れて木々の間を歩き展望台方向に行ってみることにしました。

高柴山展望台分岐

人の背を優に越えるほどの立派なヤマツツジの木があちこちに生えています。見通しが効かないので迷子になりそうです。

展望台への道

新緑と紅色のコントラストが綺麗です。

ヤマツツジアップ

足元にはフデリンドウが咲いています。風景が春に満ちてます。

フデリンドウ

頂上でツツジ鑑賞

ツツジの間を縫って展望台に着きました。展望台は塗装で木造のように仕上げてあって芸が細かいです。牧歌的な風景によく合っていると思います。

山頂展望台

こちらが北東方向です。山頂の建物は避難小屋で休憩などに利用できます。左端の一際高いピークが移ヶ岳で、画面真ん中左寄りの山頂が少し尖った山が鎌倉岳、右側の風車が立っているのが桧山です。

山頂北東方面

南方向です。こちらの方がツツジの花がいっぱい咲いていますね。左の一番手前が日影山、その右奥の尖ったピークが蓬田岳です。右側には冬に登った一盃山があるはずですが林になっているので見えませんでした。右端のはるか遠くには日光連山が見えています。雲がある割には見通しが非常によくて山を見ているだけでも楽しかったです。

山頂西方面

高柴山神社です。石造りでありながら千木や鰹木が乗り、屋根や身舎、廻縁に至るまで精巧に造られており全国有数の石材産地である阿武隈の山らしい見事な石祠です。

高柴山神社正面
高柴山神社石祠

山を埋め尽くすヤマツツジとまばらに生えるマツの木が庭園のような雰囲気です。

山頂展望台遠景

ヤマツツジに紛れて足元の方にレンゲツツジの小さな株も生えています。レンゲツツジはオレンジがかった赤色で、ヤマツツジと同じ場所に咲いていると色の違いが目立ちます。複数の花が輪状につくのも特徴的です。レンゲツツジには強い毒があるので口に入れないように注意してください。

レンゲツツジ

花がいっぱい咲いているので蝶も生き生きしていました。

蝶

心ゆくまでツツジを堪能したので来た道を下りていきます。日向のツツジも日陰のツツジも綺麗です。

日向のヤマツツジ
日陰のヤマツツジ

駐車場に戻ってきました。もう昼過ぎでしたがまだまだたくさん車が停まっていました。

下山後駐車場

あとがき

福島有数のヤマツツジの名所である高柴山に登りました。早朝に登ったのですが既に山頂展望台には何人か登山者の方がいたので、景色を眺めながら阿武隈の山について情報交換をして有意義な時間を過ごせました。普段はほとんど山に登らないという方から、阿武隈の山はほとんど全部登ったという方まで居て、高柴山が幅広い登山者に愛される山であることを実感しました。ゆっくり見て回っても2~3時間程で一回りできるので帰りに周囲の山をハシゴしていく方も多いみたいです。私は帰りに鞍掛山に登って帰ることにしました。

公式サイト

高柴山-田村市ホームページ


参考文献・Webサイト

畔上能力 編(2021)『山渓ハンディ図鑑2山に咲く花増補改訂新版』門田裕一改訂版監修,山と渓谷社

『小野町史』資料編 1 上,小野町,1987.3.

猶原恭爾 著『日本の山地酪農』,資源科学研究所,1966.

岡野誠一 ほか「林野植物に対する放牧家畜の採食嗜好性」『林業試験場研究報告』(353),森林総合研究所,1989