安達太良山について
所在地:福島県
山系:奥羽山脈
標高:1,700m
最高峰:1,728m(箕輪山)
選定:日本百名山・花の百名山・うつくしま百名山
安達太良山は福島県の中通り北部、福島市と郡山市の中ほどに位置する活火山。標高は1,700mでなだらかな山体の頂上に聳える火砕丘が特徴の山です。安達太良連峰は北から箕輪山、鉄山、安達太良山、船明神山、和尚山が連なる主稜線を中心に構成される複合火山であり、広義にはその総称としても「安達太良山」が用いられます。高村光太郎の『智恵子抄』に詠まれるほんとの空がある場所として名高く、広い青空を背景に望む雄大な景色が魅力です。
文化的には特に安達郡(現在の本宮市、二本松市を中心とする地域)との繋がりが深く、山体は信仰の対象となっています。1146年に安達太良山と名倉山の神々を遷して本宮市内の小高い丘(現在の菅森山)に創建された安達太良神社は安達郡の総鎮守として長く崇敬されてきました。
本宮市の名前の由来はこの安達太良神社から来ています。元は「本目村」と呼ばれた地に山の神を祀るお宮を立てたことから「本宮村」と名前を改めたと言い伝えられています。
また、二本松市の岳温泉は安達太良山から源泉を引く温泉地の一つですがその歴史は古く平安時代まで遡り、災害や戦火の憂き目に幾度も見舞われながらも名を変え場所を変えながら復興を果たしました。現在の岳温泉街は安達太良山標高1,500m付近の源泉から8kmもの距離に渡って湯樋(ゆどい)を引いた先に位置しており、湯樋の清掃を行った翌日には湯の花で白濁した温泉を楽しむことができるミルキーデイが名物の一つとなっています。
安達太良山の見どころ
安達太良山は常時観測火山に指定される活火山の一つであり気象庁が24時間体制で監視を続ける山。そんな安達太良山の火口部に位置するのが「沼ノ平」です。この沼ノ平火口は現在もガスを噴出し続けており周囲には硫黄臭が立ち込めています。現在は安達太良連峰を構成する山々を伝いながら沼ノ平外縁を一周するルートが通行可能です。火口周囲は草木が生えず岩石の変質・風化が進み白、黒、黄色の複雑なグラデーションに彩られ、さながら異界の様相を呈しています。純白の土砂を湛える火口を見つめるように北に鉄山、南に船明神山が聳え立ち、東側には尾根が切れ込み、西側の火口開口部から硫黄川が流れ出すダイナミックな景観は県下随一の絶景です。
安達太良山にはかつて硫黄採掘場があり沼ノ平火口内部に硫黄精錬所や居住棟が建っていましたが、1900年の噴火によって全壊し今では流れ込んだ土砂に埋まっています。1997年の火山性ガスによる死亡事故に伴い沼ノ平を通るルートは閉鎖され、現在は火山活動をモニタリングする観測装置が立つのみとなっています。
奥岳登山口ルートについて
安達太良山は登山者からの人気が高く、登山者用アプリのYAMAPが公表している登山者数ランキングでは東北エリアで2021年、2022年の二年連続で第一位を記録する大人気の山となっています。
そんな安達太良山で最も人気なのが奥岳登山口コース。安達太良山東部のあだたら山ロープウェイ山麓駅から出発して安達太良山頂を目指すコースです。登山道がしっかりと整備されており、ロープウェイ山頂駅からは1時間ほどで安達太良山頂1,700mに登頂することができるので家族客、ツアー客や学校登山の子供達なども多く見られる比較的カジュアルな山行となっています。山頂に着いたら沼ノ平周辺を歩いてそのまま来た道を戻るか、くろがね小屋、勢至平方面を通って奥岳登山口に降りるのが初心者におすすめのコース。山歩きに慣れてきたら沼尻温泉登山口や野地温泉登山口に抜ける縦走コースも選択肢に入ります。
今回は沼ノ平方面までじっくり見て回ろうということで、体力温存のためロープウェイを利用して登ることにしました。ひとまず安達太良山頂を目指し、ガスが多ければ鉄山避難小屋までピストンして時間を潰しながら雲が流れるのを待ち、晴れ間が見えたら沼ノ平東側で腰を据えて写真撮影という算段です。道中は大きな高低差がなく登山というよりはトレッキング感覚で気楽に歩く予定です。
安達太良山・矢筈森・鉄山・薬師岳 / 白雀さんの薬師岳(福島県)・鉄山(福島県)・安達太良山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
安達太良山頂へ至る道に咲き誇るツツジの花々
数年前に登った際は頂上付近が厚い雲に覆われていてなんとも不完全燃焼感の残る山行になってしまいました。今回はリベンジということで梅雨の晴れ間を狙って安達太良山の麓に位置するあだたら高原スキー場に向かいました。前回は朝5時から歩いて勢至平経由で頂上までアプローチしましたが、今回は山頂に着いたタイミングで晴れ間が見えるように11時ごろから登り始めます。割と遅めの出発ですが太陽の出ているうちに余裕をもって下りられるように天気予報とにらめっこして計画を立てています。
奥岳登山口に着いたら早速、麓の駅から乗り込んで出発します。
ロープウェイを降りてしばらくは木道が続きます。前日の雨で多少足元がぬかるんでいますが慣れた道ということもあり楽に登っていきます。登山者が多かったのでペースは緩く、久々の登山ではありましたが余裕を持って登ることができました。
6月の安達太良は花の最盛期。山道の脇にはサラサドウダンが咲いていました。ガクウラジロヨウラクやイソツツジも全盛を迎え、登山道がツツジの見本市になっています。『花の百名山』でも安達太良山のツツジ類の豊富さは触れられていましたが想像以上でした。ちなみに本書で安達太良山の花として紹介されている「ツリガネツツジ」は「ウラジロヨウラク」のことを指しているようです。確かに安達太良山頂に至る道にはウラジロヨウラクやガクウラジロヨウラクがたくさん咲いていました。
安達太良山頂が見えてきました。頂上の黒い岩塊は12万年前の噴火によって生じた溶岩円頂丘で別名は「乳首(ちちくび)」。この山頂部の形状から安達太良山自体を乳首山と呼ぶこともあるようです。
安達太良山頂までほぼ1時間で平均ペースぴったり。そして肝心の頂上付近はといえば見事にガスまみれなのでした。とはいえ山の上の方は風が強くて湿度自体はあまり高くないので今出ている雲が流れれば晴れてきそうな様子です。体力も有り余っているので、予定通りしばらく沼ノ平周辺を歩き回りながら晴れ間を待つことにしました。
荒涼とした馬の背を通り鉄山へ
安達太良山頂から鉄山に向かい歩き始めます。ここからは風化した岩石が散らばる黄色っぽい道になり火口に近づきつつあることを感じさせます。点在するケルンをたどりながら進んでいくと分岐点が見えてきました。
しばらく進むと火口部も見え始めます。鉄山と船明神山への道の分岐点「峰ノ辻分岐点」辺りを過ぎると一気に視界が開けて沼ノ平の全貌が顕になります。安達太良登山のハイライトはここにあると思うので、山頂まで来たらこの分岐点までは足を運ぶことをおすすめします。
とはいえまだまだ雲は晴れません。峰ノ辻分岐から矢筈森の分岐までの道、「牛の背」を歩いてきました。ここから鉄山を繋ぐ道は稜線上の「馬の背」。道幅はそこそこですが、砂利道で傾斜もあるので慎重に進んでいきます。左手に沼ノ平、右手に勢至平と二本松を望む光景についつい目を奪われてしまいます。
道の先に立つ黒い岩塊が鉄山です。草木の繁茂を受け付けず隆々とした岩肌を誇るその様は「鉄」の名に恥じない堂々とした山容です。少し西の方に進むと鉄山の頂上に辿り着きます。道の途中には小さめのオノエランがシラタマノキなどの低灌木と仲良く並んで咲いていました。イワカガミも岩場の上で群生しています。
鉄山を越えて避難小屋に向かいます。だんだんと雲の切れ間から陽が差しこんできています。避難小屋に着いた頃には雲よりも青空の方が目立ち始めました。
避難小屋からはまた道が分かれていて、北に見えるのは箕輪山、標高1728mで安達太良の最高峰はこの山です。おにぎり型の山容でさぞかしいい景色だろうと思いましたが、今回は予定通りここで来た道を戻ります。今度来る時は野地温泉登山口から箕輪山、鬼面山を登るのもいいかなと思いました。
梅雨の晴れ間と沼ノ平
踵を返して安達太良山への帰路を進んでいきます。すっかり天気も良くなってきたので峰ノ辻に着く頃には日に照らされて輝く美しい沼ノ平が見えることだろうと期待に胸が膨らみます。
だいぶ陽も出てきて岩場の陰影がくっきり浮かび上がります。安達太良山と鉄山を繋ぐ道は滑りやすいので行きも帰りも気を付けて歩きます。
二本松方面も見渡せるようになってきたので、ついでに矢筈森に寄っていきました。峰ノ辻近くから伸びる脇道を3分ぐらい歩くと矢筈森の頂上に着きます。手軽に登れる割に景色が一気に変わるのでお得な気分です。ここで少し休憩して、景色を楽しみつつ栄養補給。安達太良山頂付近と比べて人が全く居ないので落ち着いて休憩できる穴場です。
本道に戻って少し歩き峰ノ辻分岐点に到着しました。計画通り広く空を覆っていた雲は頭上から流れていき、晴れ空に浮雲の浮かぶ絶好の景観が眼前に広がっていました。
沼ノ平辺縁部は草木が生えないので入り組んだ地形がよく見えます。双眼鏡や望遠レンズを持ってくるとさらに楽しめそうです。
まだ時間があるので船明神山の近くまで行ってみることにしました。黄色い小石の散らばるザレ場が広がり、牛の背や馬の背より道も切り立っているので気は抜けませんが、その分沼ノ平を道の際から見渡すことができます。
船明神山付近は傾斜がきつく、滑りやすいので特に注意が必要です。坂を登りきると船明神山の真横に出ます。剣状の山体が印象的です。この先は切り立った断崖に沿って歩くような道が続きますが時間的に今回行けるのはここまで、ということで来た道を引き返していきます。
またまた来た道を戻り安達太良山頂付近に来ました。せっかく晴れたところなのでもう一回山頂まで行っておくことにしました。こうしてようやく晴れた日の安達太良山を堪能することができたので前回のリベンジは果たせました。
巨大な沼ノ平も山影に隠れて見えなくなりました。さようなら安達太良山。
安達太良山下山
16:17にロープウェイ駅に到着。16:30営業終了なので時間ぴったりです。逆に言うと少しギリギリでした。別にロープウェイに乗らなくても麓までは1時間程度で着くので何の問題もないのですが、せっかくなので下りの景色をゆっくり眺めたかったのです。かごに揺られて麓に到着。
まだ17時頃ということで、岳温泉付近で夕食を取ることにしました。向かったのは空の庭レストラン。結婚式場やホテル、日帰り温泉などがセットになった施設「空の庭」内のレストランです。温泉施設は何度か利用したことがあったのですがレストランの方は初めて。福島牛ステーキも魅力的でしたが今回はスペアリブにしてみました。香味野菜と豆板醤で甘辛く仕上げた分厚い豚肉がボリュームたっぷりで大満足でした。登山後に摂取するカロリーの素晴らしさを美味しいお肉と共に噛み締めたのでした。
まとめ
今回は梅雨の晴れ間の安達太良山を歩きました。ロープウェイで一気に山頂にたどり着いたらあとは沼ノ平付近を歩き回っていただけなのですが、雲が流れ日が傾くにつれて表情を変える山の姿を眺めているだけでも充実した時間を過ごすことができました。これも爆裂火口を取り囲む入り組んだ複雑な稜線を持つ安達太良山の楽しみ方の一つ。綺麗に整備された登山道を通って外輪山の尾根筋に出たら、白砂と山々の織り成す景色の中でゆったり流れる雲を眺めてほんとうの空に思いを馳せてみてください。
公式サイト
藤縄明彦・工藤 崇・星住英夫(2006) 詳細火山データ集:安達太良火山.日本の 火山,産総研地質調査総合センター (https://gbank.gsj.jp/volcano/Act_Vol/adatara/index.html)
国土地理院(2007)火山土地条件図「安達太良山」1:25, 000(https://www.gsi.go.jp/common/000109836.pdf)
国土地理院(2007)火山土地条件調査報告書(https://www.gsi.go.jp/common/000109853.pdf)
気象庁(2013)35 安達太良山 Adatarayama:日本活火山総覧第4版(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/menu_jma_hp.html)
深田久弥(1978)『日本百名山』新潮文庫
田中澄江(1983)『花の百名山』文春文庫
岡陽子 編(2020)『日本百名山山歩きガイド 上』JTBパブリッシング
畔上能力 編(2021)『山渓ハンディ図鑑2山に咲く花増補改訂新版』門田裕一改訂版監修,山と渓谷社
清水建美 編(2021)『山渓ハンディ図鑑8高山に咲く花増補改訂新版』門田裕一改訂版監修,山と渓谷社