【東北】吾妻山登山〜浄土平から一切経山経由で家形山へ〜【7月】

一切経山アイキャッチ

吾妻山について

吾妻山の基本データ

所在地:福島県

山系:奥羽山脈

標高:2,035m(西吾妻山)

選定:日本百名山・うつくしま百名山(東吾妻連峰)・やまがた百名山(西吾妻山・東大巓・家形山)

吾妻山は福島県北部と山形県南部に跨る山々の総称です。最高峰の西吾妻山(2035m)を筆頭に東吾妻山(1975m)、一切経山(1949m)、吾妻小富士(1705m)などの高山がゆるやかに連なり山系を形成しています。これらの山々は福島市街地から真西を向いた先に聳え立ち、その雄大さと季節と共に姿を変える美しい姿から市民に親しまれてきました。特に、雪解けが進み暖かくなってきた時期に吾妻小富士の中腹に現れる雪のシルエットは「雪うさぎ」や「種蒔きうさぎ」と呼び習わされ、古来より福島の春の象徴となっています。

吾妻山の福島県側で特に人気のスポットは福島市西部の高湯温泉から吾妻連峰の東側に位置する浄土平を通り、これまた温泉地の土湯峠につながる観光道路「磐梯吾妻スカイライン」です。吾妻山の景色を眺めながらゆっくりドライブして、浄土平レストハウスで一休み。吾妻小富士に登って軽い登山気分を味わって帰りに温泉を楽しむというのは吾妻山観光の黄金パターンになっていて、冬季通行止めが解除されるや否や毎年たくさんの人出となります。

今回浄土平を訪れたのは2023年7月、福島盆地では梅雨が明けて蒸し暑い日が続く頃。吾妻山は眩しいほどの緑に溢れ、シャクナゲをはじめとした高山植物に彩られる季節です。

吾妻山の見どころ

吾妻山は西から東まで見所の多い山ですが、「魔女の瞳」を見下ろす一切経山は吾妻の山々の中でも名高い山の一つです。西吾妻山を始めとした吾妻山西側の山が比較的古い時期の火山であるのに対して、吾妻山の東側は有史以降にも活動が確認されている若く活発な山々が多く、浄土平から北を見遣ると裸の山肌が印象的な一切経山の中腹からガスが噴出しているのが分かります。この一切経山を登って山頂から北の方向に目を向ければ火口湖が見えます。この火口湖の名は「五色沼」、澄み切った青い湖面が時間と共にその色を変えることから名付けられたそうです。そしてこの五色沼こそが「魔女の瞳」の正体です。

冬の吾妻連峰は一面雪に覆われ、五色沼の湖面もまた氷雪の下にその姿を隠してしまいます。時は流れて雪解けの季節、湖に張っていた氷が溶けはじめて真っ白な残雪に覆われた外輪山の中央部にコバルトブルーの神秘的な輝きが少しずつ顕になってゆきます。まるで青い瞳が開かれるような景色の移り変わりを「魔女の瞳」の「開眼」と呼び、5月頃にはこの開眼をお目当てに多くの人が一切経山に訪れます。

白雀
白雀

上の写真は2024年4月に撮影したものになります。

残雪期の一切経山は冬山装備が必要ですが行程が短く気候も安定しているので比較的登りやすい雪山です。

こちらの山行記録もいずれ紹介したいと思います。

浄土平登山口ルートについて

今回は磐梯吾妻スカイラインの浄土平駐車場から一切経山に登り、五色沼を一目見た後に、一切経山を越えて五色沼の北に位置する家形山に登って五色沼を反対側からも見る、というのをざっくりとした目的としました。そして帰り道にはクールダウンがてら浄土平の西にある鎌沼をゆっくり一周して帰ってきます。火山性ガスや標高の影響で草木の少ない一切経山と比べて湿地の広がる鎌沼周辺は高山植物の宝庫であり、セットで回るとさらに楽しめるはずという目論見です。

このルートですが、実は結構前から計画自体は立てていました。しかしこの浄土平から一切経山に至るルートというのは2018年9月に吾妻山の噴火警戒レベルが2に引き上げられたことに伴って通行禁止となっており、以降2020年6月まで1年9ヶ月もの間その道が閉ざされていたのです。無事に通行規制が解除されたという報を聞いてからようやくこの度来訪が叶いました。

一切経山・家形山 / 白雀さんの一切経山家形山の活動データ | YAMAP / ヤマップ

登山記録

一切経山山頂から五色沼を眺める

6時ごろに浄土平駐車場に辿り着き、ビジターセンター脇の登山道入口から登り始めます。浄土平周辺は湿地帯となっておりその中を木道が通る形となっています。本格的な登山はしないという人でも駐車場から数分でハイキング気分が味わえるオススメのスポットです。

駐車場から歩いてすぐのところからハクサンシャクナゲが咲いています。福島県の花であるネモトシャクナゲも咲いているはずですがすぐ通り抜けてしまったので見つけられませんでした。

登山者ポストを超えると少しずつ登山道らしい道になっていきます。ツマトリソウやマイヅルソウに見送られながら10分ほど登っていくと一気に視界が広がり酸ヶ平の木道に出ます。

先に見える大岩が分岐点の目印。まっすぐ行けば鎌沼、右に曲がると一切経山への道です。向こうに建っている酸ヶ平避難小屋を通り過ぎてさらに進んでいきます。避難小屋の先にはトイレがないので、ここの公衆トイレで済ませて行くと道中安心です。一切経山に向かう道はゴロゴロとした岩の転がるガレ場となっていますが、人が通る所は土が見えており歩きにくさはあまり感じない道です。

登るにしたがって周りの草木も徐々にまばらになってきます。ここまで来ると道も平坦になるので大口を開ける吾妻小富士を横目にハイキング気分で悠々歩きます。気がつけば一切経山山頂に辿り着いていました。景色はあいにく霞みがかっていますが、信夫山があるおかげで福島市街地の場所はすぐに分かります。おろしの「吹く」盆地の只中、霧に浮かぶ「島」のような信夫山が福島という名の由来となったと言われていますが、こうして山の上から見渡すとその話にも納得がいきます。

山頂の北側に行って五色沼を見下ろせば噂通りのコバルトブルー。まだ雲が太陽を隠しているので少し濁り気味の瞳になっていますが、しばらく待っていれば瞳の輝く時を見ることができるかな、ということで晴れ間を待つ時間で沼の向こう側に見える家形山に向かいます。

一切経山を背に輝く五色沼

一切経山北側のガレ場は少し急なので足元に気を付けて進んでいきます。危ない道のほとんどない道中ですが、この辺りが一番注意して進むポイントでした。五色沼の周りは一切経山周辺と比べて木が多く、笹の目立つ林を歩いていくことになります。樹林帯ということもあって花も多く咲いていて日向にはマイヅルソウ、日陰にはコゼンタチバナといった花々が登山道を彩っていました。

しばらくすると樹林帯を抜けて視界が開けてきます。土がはけて根がむき出しになったハイマツが所々に群生していて、白い枯れ木が転がる少し淋しげで幻想的な風景です。

家形山が近づいてきました。この辺りから見上げると名前の由来にもなった寄棟造の農村家屋のような山の形がよく分かります。

家形山の麓にはウラジロヨウラクが群生していました。萼片の長短が混在しておりウラジロヨウラクとガクウラジロヨウラクの中間のような花も見られます。家形山への道中にはニガナやオトギリソウが目立ちます。一切経山周辺とは目につく花が少し異なるように感じました。

剥き出しの岩場をよじ登っていき家形山の山頂付近に到着。ケルンがあるので山頂かなと登った時には思っていましたが、後で調べてみるとこの辺りは家形山の南端の眺望地で、向こうに見えるオオシラビソ林を抜けた先に家形山山頂があるらしいです。

家形山の魅力はなんと言っても一切経山と五色沼を一気に見晴らす展望です。人の多い一切経山と比べてこちらには人が全くいないので時間を忘れてゆっくり景色を楽しめました。

しばらく歩いたおかげで雲も晴れてきたのでそろそろ一切経山に戻ります。家形山からの往路は一切経山を目の前に捉え続ける形になるので、いちいち立ち止まって景色を楽しむ気にさせられます。

森を抜けて岩場を登り一切経山に帰って来ました。雲が晴れて風も穏やかになって来たので最初見た時より湖面の輝きが増しています。折角背負ってきた三脚も使い所があって良かったです。

しばらく景色を楽しんだので鎌沼の方に戻ります。今度は左側に吾妻小富士と福島市街地が見えます。マルバシモツケの向こう側に鎌沼が見えてきました。丸い池のように見えますが左奥の方まで水が伸びていて上から見ると三日月形をしており、その形から鎌沼と呼ばれています。

酢ヶ平の木道まで戻ってきたら西側に進んで沼の方に進みます。沼の周辺は見ての通り湿原となっているので一切経山方面では見ることの出来ない花がいっぱい咲いています。ミヤマリンドウやイワオトギリなどの高山植物らしい可憐で鮮やかな花が迎えてくれました。

鎌沼の畔でハイキング

鎌沼の畔まで来ました。山上の沼なだけあって真夏でも水に一切の濁りがなく、底に転がる石の一つ一つまではっきり見通せる透明度です。

鎌沼の北側には湿原がそのまま盛り上がったかのようにびっしりとチシマザサに覆われた前大巓(まえだいてん)が見えます。山の南面が吹き溜まりとなって雪が残るので高木があまり育たないようです。

鎌沼の西まで来ました。この辺りはコバイケイソウの群落があるのですが、時期的に外れているので数株ほどの花が咲くのみでした。木道沿いにはワタスゲが穂を揺らしていました。愛らしい姿に引き寄せられて、つい足を止めてしまいます。

鎌沼を通り過ぎて姥ヶ原まで来ました。十字路となっており谷地平小屋、東吾妻山、浄土平に分岐します。浄土平方面に戻っていきましょう。姥ヶ原から浄土平に向かう道ではハクサンシャクナゲを横目に見つつ真正面に吾妻小富士を捉えて降りていくことになります。前景に木道とシャクナゲが囲み青空を背景に映える吾妻小富士の姿はいつ見ても絵になります。

樹林帯を通って浄土平に戻って来ました。吾妻小富士の大きな火口も下からは見えません。

時刻はもう14時を回っているので、最後に浄土平レストハウスで遅めのお昼にしました。山塩ラーメンのサッパリとした塩味が疲れた体に優しく沁みて美味しかったです。ウズラ入りのラーメンは珍しいですね。

まとめ

福島市にいた頃は時間が空くたびに訪れていた吾妻山ですが、花の盛りに歩いてみるとまた楽しい山だと再確認できました。荒涼とした火山らしい風景の一切経山、樹林帯を通り抜けてたどり着く家形山、そしてのどかな花畑の広がる鎌沼。今回はこれらのポイントを順に巡りましたが、浄土平周辺だけでも吾妻小富士や東吾妻山など見どころはまだまだたくさんあります。登るたびに新たな一面を見せてくれる吾妻山は、季節を変えルートを変えて何度も訪れたくなる名山です。

公式サイト

浄土平ビジターセンター

浄土平レストハウス


参考文献・Webサイト

気象庁(2013)34 吾妻山 Azumayama:日本活火山総覧第4版(https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/souran/menu_jma_hp.html)

蟹澤聰史・相田優(2013)「福島県の地質」,『協会誌「大地」』53,p.3-26,東北地質調査業協会.(https://tohoku-geo.ne.jp/information/daichi/img/53/03.pdf)

深田久弥(1978)『日本百名山』新潮文庫

岡陽子 編(2020)『日本百名山山歩きガイド 上』JTBパブリッシング

畔上能力 編(2021)『山渓ハンディ図鑑2山に咲く花増補改訂新版』門田裕一改訂版監修,山と渓谷社

清水建美 編(2021)『山渓ハンディ図鑑8高山に咲く花増補改訂新版』門田裕一改訂版監修,山と渓谷社