
冬の吾妻山と樹氷群

福島と山形の県境に聳える吾妻山は日本百名山の一座にして樹氷の名所。自然の作り上げる複雑で有機的な造形から”スノーモンスター”とも言われる樹氷ですが、吾妻山の樹氷は他山域のものと比べて小さく可愛らしい姿が特徴で”リトルモンスター”と呼ばれて親しまれています。小さいとはいえ元は樹木なので、その大きさは人の背丈を優に超える程。なだらかに連なる吾妻の山々を白い氷塊が覆い尽くす様は圧巻です。
また、冬は草木が雪に埋もれて見晴らしが良くなるので吾妻山の優れた展望を楽しむのにも最適な季節。四方に開けた稜線部に上がれば東の一切経山へ連なる吾妻連峰や、磐梯山と裏磐梯の湖沼群、米沢市街地の奥に聳える飯豊連峰など雄大な景色を一望できます。
西吾妻山からの展望は夏の登山記録で紹介しています。以下のリンクからご覧ください。
この登山記録では西吾妻山の手前で戻る西大巓へのピストンルートを紹介します。
西大巓について
所在地:山形県・福島県
山系:奥羽山脈
標高:1,982m
西大巓(にしだいてん)は吾妻山の主峰である西吾妻山の西隣に繋がるピークです。福島県側から見ると西吾妻山の手前に位置しており、広大な樹氷群や360度の大パノラマを楽しむことが出来ます。樹氷鑑賞に訪れる場合はここを経由して西吾妻山まで足を延ばす方が多いですが西大巓までの道のりでも見どころはたくさんあります。
巓とは「山の頂上」の事。訓読で「いただき」とも読み、古い文献には頂の代わりに用いている物が見受けられます。吾妻連峰には西大巓の他に東大巓、中大巓、前大巓といった山があります。他山域で~大巓と呼ばれる山は聞いたことがなく、吾妻山特有の珍しい山名です。
グランデコルートについて
西大巓 / 白雀さんの西大巓の活動データ | YAMAP / ヤマップ


冬の西吾妻山にはリフトやゴンドラを利用してゲレンデトップからアクセスできます。夏と同じく山形側の天元台高原および福島側のグランデコスノーリゾートが稼働しており、いずれもスノーシューで頂上までたどり着くことが出来ます。
今回は裏磐梯に宿泊し福島側のグランデコからゴンドラを利用して樹氷を見に行きました。コースは先述の通りゴンドラ山頂駅から西吾妻山の手前に位置するピークの西大巓までのピストンです。ゲレンデの急坂を登り樹林帯を抜けて最後に雪原を越えて樹氷群の立ち並ぶ山頂周辺部に至る道のりは、全体を通して傾斜が緩いことに加えて登山者が多くトレースがはっきりとしていて歩きやすいコースです。
ふかふかの雪が積もった緩斜面が主体となるのでスノーシューとストック装備がおすすめです。アイゼンとピッケルは念のため持っていきましたが使用する場面はありませんでした。

注意点としては山頂周辺に目印の少ない場所があり、荒天で視界が悪くなると道迷いの可能性があります。また、冬の樹林帯を歩くのでツリーホール(多雪地帯で樹木の根元に出来る空洞)に落ちないように木との距離感は常に意識する必要があります。
山形県側の白布峠から福島県側の裏磐梯に抜ける道路である西吾妻スカイバレーは例年11月上旬から4月下旬まで冬季閉鎖されるので、この間グランデコスノーリゾートには福島県側からのみアクセス可能です。詳しくは山形県や福島県のHPをご覧ください。

どうして手前で引き返すのかといえば今回はヘルニアからの病み上がり登山だからです。急性期を過ぎてから体幹トレーニングや低山登山などで痛みが出ないことは確認していたのですが雪山で何かあると大変なので無理のないスケジュールで臨むことにしました。
坐骨神経痛こそ残っていますが登山に全く支障は無く、むしろ姿勢を意識する癖がついたことで結果的に長距離の山行でも楽に登れるようになりました。登山できない時期は大分気持ちが落ち込んでいましたが塞翁が馬ですね。
ゴンドラに乗って雪山へ

朝のグランデコスノーリゾート駐車場です。冬の会津では珍しい抜けるような青空ですが、もちろん絶好の天気を狙いすましてやってきました。一際高いピークが二座ならんでいますが、左が西大巓、右が西吾妻山です。

麓の建物でチケットを買ってゴンドラに乗ります。

ゴンドラに揺られて山頂駅に着きました。スノーシューを装着したら早速登山開始です。最初の辺りは整地された雪道ですが結構傾斜が強めなので早々にヒールリフターを上げて歩きます。

振り返ると磐梯山がどんと聳え立っています。ゲレンデから既に絶景ですね。

まだ木の下の方に雪が付いているだけですが標高が上がるにつれてこれが丸々と大きくなっていきます。楽しみです。

傾斜が一旦緩やかになりリフト下り場が見えてきました。このリフトは昔稼働していた第4リフトの跡らしく、古い登山記録を調べているとここから登り始めるものもありました。これが動いてたら大分ショートカット出来るのになーと思いつつ通り過ぎていきます。

リフト下り場を通過して樹林帯に入ります。林の中は圧雪されていないのでバフバフとした歩き心地です。これぞスノーシューハイクといった感じになってきました。トレースのおかげでツボ足でも行けそうなんですが折角なのでスノーシューは脱がずに歩きます。

周囲の木々が段々と白くコーティングされていきます。進めば進むほど景色が変化していくので歩きにくい雪道も全く苦になりません。

視界が開けてきて右手には西吾妻山方面が見えてきました。

更に登ると雪の斜面が姿を現します。西大巓のピークは坂の向こう側、山頂まではあと一時間ぐらいかかります。遠景なので雪の壁のように見えますが実際はゆるい登り坂なのでご安心を。
雪原の先に聳える西大巓

ここまで来ると木々はすっかり氷雪に覆われています。ボコボコした不思議な形をしていてモンスターという表現がピッタリです。

樹林帯を抜けて雪原に出ました。見通しが良くて気持ちのいい道です。

何か視線を感じる、と思ったら樹氷でした。

この辺りは風が吹き抜けるので雪の表面には綺麗な雪紋が刻まれていました。振り返ると磐梯山と雪紋の共演が見られました。

氷原を越えて西大巓山頂に着きました。

真っ白な樹氷と抜けるような青い空。斜面の下から見上げるように眺めているとファンタジーの世界に迷い込んだかのような気分、不思議な造形の「リトルモンスター」は今にも動き出しそうな迫力です。

樹氷は風を受けた所から水分が付着して風上側に成長していきます。このように風に向かって伸びる突起が俗に言う「エビのしっぽ」です。風上側からみるとトゲトゲしていて荒野に生えるサボテンのようにも見えてきます。
山頂から楽しむ大展望
西大巓のピークからは樹氷とともに周囲の山々を見渡すことが出来ます。

西方面に聳える大きな山塊が飯豊連峰です。てっぺんが真っ白に染まっていてまさしく大盛白ご飯です。夏でさえキツい山だったのでこの真っ白の時期に登るというのは想像を絶する厳しさだろうと思います。

飯豊の右のほうに視線をずらして北東方面、米沢盆地の向こう側には朝日連峰が見えます。下半分が薄雲に隠されることで天空の城みたいなカッコいい姿になっていました。

そして北東方面には西吾妻山のピークに向かって踏み跡が続いています。腰も案外問題なさそうだしこのまま西吾妻まで行っちゃおうかなーと一瞬思いましたがやっぱり止めておきました。ノリと勢いは雪山では禁物です。雪の無い山でもあんまり良くないですが。

東方面には一切経山など吾妻連峰の東半分も見えています。厳冬期の一切経山や魔女の瞳も気になる所ですが、磐梯吾妻スカイラインは冬季閉鎖されているので麓の高湯温泉から歩く必要があるようです。

そして南にどっしりと聳え立つのが福島のシンボル磐梯山です。お椀状にえぐれた山体崩壊の跡、そしてそれに伴い形成された裏磐梯の湖沼群など、火山活動によるダイナミックな地形を一望できます。磐梯山の向こう側には猪苗代湖が広がり、さらに奥には那須連峰まで見えています。晴れた日を狙ってきましたがここまで全方位見渡すことが出来れば大満足です。
帰り道も美しい西大巓

予定通り来た道を戻りスキー場まで下りていきます。

帰り道は磐梯山を正面に据えながら歩く形となります。

樹氷の向こうに見える磐梯山も綺麗です。

時刻は12時過ぎですが登ってくる方もちらほら見かけます。ゴンドラが使える山なので陽が出てきて歩きやすくなってから登り西大巓まで行って帰ってくるというのもありかもしれません。


色々な形の樹氷が次々に現れるのできょろきょろ辺りを見回しながらゆっくり歩いていきます。

樹林帯に入ったら一気に下っていきます。モフモフの斜面をスノーシューで駆け抜けるのが楽しくて写真を撮るのも忘れて樹林帯を突っ切りました。

樹林帯を抜けてスキー場に戻ってきました。ここからの景色も見事なものですね。

ゲレンデを下りてゴンドラ山頂駅へ。早朝はほとんどが登山客でしたが昼を過ぎてゲレンデはスキーヤーでごった返していました。山を下りて人がいっぱいいる場所に戻ってくると何だか安心します。

スノーシューを外し身軽になった足でゴンドラに乗り込みます。

山麓駅に無事到着して下山完了です。
あとがき
今回は西大巓までの短縮ルートで吾妻山の樹氷を楽しみました。近年は温暖化の影響か2月下旬には大分樹氷が小さくなってきてしまうのですが山頂付近にはしっかり樹氷が残っていたので良かったです。2泊3日で裏磐梯に滞在したので前日は五色沼、翌日は磐梯山のイエローフォールでスノーシューハイクをがっつり堪能して充実の冬になりました。
公式サイト
深田久弥(1978)『日本百名山』新潮文庫
