
二ッ箭山について
所在地:福島県
山系:阿武隈山地
標高:709m
選定:東北百名山・うつくしま百名山
二ッ箭山は男体山と女体山の二つの巨大な岩峰が特徴的な、いわき市を代表する山の一つです。6km弱の周回コースの中に、滝や沢、岩場などが次々と現れるバラエティ豊かな登山道が人気を呼び、とりわけ春のツツジ類や秋の紅葉の時期にはたくさんの登山者が訪れます。二つの岩峰の鎖場は本格的な岩登りとなっており、低山でも手ごたえのある登山を楽しみたいという方も満足させる懐の深い山です。


二ッ箭山の歴史
二ッ箭山の名は先述の二つの岩峰があたかも二本の矢や二棟の小屋のように見えることから名づけられたといわれており二ッ矢や二屋などとも呼ばれていたようです。また、赤井岳(二ツ箭山の南西に位置する閼伽井岳を指す)で暴れまわっていた赤毛の猪を石城国造である建許呂命が二本の矢で射抜き、その矢を奉納したため二ツ箭山と呼ばれるようになったという伝説も残っています。
峻厳な山容により古くから信仰を集めており、式内社である二俣神社(いわき市)はこの二ッ箭山を神体山としていたのではないかという説があります。中世には本山派(熊野三山信仰)の光明寺および来泉寺という対立する二つの寺院により修験の行場とされ山中には熊野の神が祀られました。
気になるのが山中に湯殿山や月山といった地名が残っていることです。本山派の行場であったにも関わらず羽黒修験で信仰されていた出羽三山に由来する名がついているというのは不思議な感じですが、地理的に熊野や吉野から隔絶されている上に出羽三山信仰が盛んであった南東北地域に位置しているので、より近い修験の流派から影響を受けたのかもしれません。
根本登山口からの周回コース
二ッ箭山に登る際の定番コースは南麓の根本登山口からの周回コースです。登山口には広い駐車場がありトイレも整備されています。沢歩きに加えて一枚岩や鎖場のある道は滑落のリスクが高いため登りで通るように、時計回りで男体山と女体山を経由して二ッ箭山頂上へ向かいます。沢の手前の分かれ道で沢コースに進み御滝を通って〆張場まで登ります。〆張場から尾根コースに進み男体山と女体山の岩峰に登頂します。二つの岩は頂上ではなく東に300m程進んだ先のピークに二ッ箭山の三角点が置かれているのでそこまで登り、下りは林道を歩いて月山を経由して月山新道で登山口に戻ります。
沢コースと尾根コースは麓の沢で別れた後に一枚岩の手前で交差しているので地図だけでは分かりにくいかもしれません。分岐地点には看板があるので都度確認しましょう。YAMAPであれば登山記録から軌跡をダウンロードしておくと便利です。
男体山と女体山の鎖場は死亡事故も発生している危険箇所なので不安があれば無理せず迂回しましょう。男体山の頂上に至る道は険しい鎖場のみですが、女体山は北側の巻道からも登頂できます。
男体山・女体山・二ッ箭山・月山 / 白雀さんの女体山(福島県)・二ッ箭山・月山(福島県いわき市)の活動データ | YAMAP / ヤマップ
沢沿いを歩いて岩場へ
日の出前の二ッ箭山入口駐車場です。日の出前の空に二ッ箭山の山容が浮かび上がっています。

舗装路を少し歩いて登山道に入ります。


杉林の中を進んでいくと道の真ん中に注連縄と紙垂がかけてありました。夜明け前の空気と相まって幻想的な雰囲気です。左の二ッ箭山方面に進みます。

沢の手前で分岐になります。沢を横切り左に向かうと尾根コース、右に向かって沢沿いに登ると沢コースです。ここは沢コースを進みます。

沢に沿って登っていくと御滝が見えてきました。

滝の右側に小さな祠があり、傍には剣が立てられています。不動明王の持つ三鈷剣を模したものだと思います。

どこから進むんだろうと周囲をうろうろしていたら滝の左側に鎖が打たれているのを見つけました。暗いとちょっと分かりにくいので注意です。

川を渡って進んでいきます。雨が降ったら大変そうな道です。

階段状に積み重なる巨岩の間を登ります。轟々と水の流れる音だけが響く森の中を歩いていると心が癒されます。

岩に打ち付けられた梯子を登ります。苔むした岩を登るので結構緊張感があります。

森の中にまた注連縄が掛けられていました。ここが〆張場と呼ばれる分岐で尾根コースと沢コースに道が分かれます。左の尾根コースに進みます。

巨大な一枚岩の上を歩きます。そこまで急な斜面ではないのですが迫力があります。

一枚岩の先に水場がありました。凄い勢いで水が出ていたのでここでタオルを冷やして少し休憩。

水場を過ぎるとしばらく森の中です。大岩がゴロゴロ転がっていて阿武隈の山らしい風景です。

分岐を鎖場方面に向かいます。

男体山と女体山に登る
まず現れるのが男体山手前の鎖場です。そこそこ長めの鎖場ですが足場は沢山あるので見た目よりは登りやすいです。ここを登った先が男体山と女体山の鞍部です。

まずは鞍部の鎖場から女体山の方に登ります。鎖が二股に分かれる先の岩が出っ張った部分が少し登りにくかったです。基本的には上に向かうだけなので考えることは少ないです。

女体山頂上に着きました。

男体山に向かって縄を掛けてあります。

南方面です。天気が良くて遠く小名浜港のあたりまで見通せました。

鞍部から男体山の鎖場に向かいます。

男体山北側から回り込むと北西面に鎖が掛かっています。男体山の鎖場は軽いトラバースや体を持ち上げる部分があるので女体山と比べると難しい鎖場です。影になっているので岩が湿って滑りやすいのも注意です。

男体山頂上に着きました。女体山と比べると完全に独立した岩場になっており、360度の素晴らしい景観が楽しめます。

西には見渡す限り阿武隈の山々が広がります。画面中央左側の矢大臣山あたりははっきり見えますが、あとはぼんやりという感じですね。二ッ箭山は阿武隈の目立つピークからは離れていて、かなり異質な山だと改めて感じました。

男体山を下りていきます。先述の通りトラバースなどがある鎖場なので先が見通せずちょっと怖いです。

こんどは巻道の方を通って女体山東側の展望台まで来ました。

木が多いのですがここからの景色もいい感じです。

開けた場所でご飯にしました。まだ7時なので朝食です。カップご飯にお湯を入れて待っている間に二屋神社の石祠を見つけました。

下りはのんびり林道歩き
二ッ箭山の三角点に進んでいきます。祠の並ぶ大岩を通り、抱岩をくぐり抜けます。


岩がむき出しの、修験の行場らしい道が続きます。

分岐を二ッ箭山方面に進みます。

岩の隙間からアカヤシオが生えてました。ど根性です。

ギンリョウソウも咲いていました。咲いてしばらく経ち固くなってきていました。

三角点の手前は平坦な林道です。

二ッ箭山頂上に着きました。二つの岩こそが二ッ箭山を構成する主要素ではありますが、地形的にはこちらが三角点の置かれた頂上という扱いになっています。森の中なので展望はありません。

来た道を戻って月山方面に向かいます。


月山の岩の上に月山神社が祀られています。たくさんの土鈴が印象的な石祠です。本当は月山の辺りから男体山と女体山が綺麗に見えるんですが撮るのを忘れてました。


分岐を駐車場方面に曲がります。この辺りは少し急な土の道なので滑らないように気をつけます。


標高を下げて杉林に入ります。沢歩きや岩登りの余韻に浸るのにちょうどいい雰囲気です。

暖かくなってきたのでアザミの蕾がだいぶ膨らんで来ました。

麓まで下りてきました。

登りでは暗くて気づきませんでしたが、麓には十九夜の月待塔が立っていました。小屋付きで大事に管理されています。

あとがき
沢登りや鎖場などが次々と現れる二ツ箭山の登山道は、低山ながらも粒ぞろいの阿武隈山地を象徴するような個性的で楽しいものでした。登山口の手前では地元の方から「怪我しないように気を付けて」と声をかけて頂き、心が温まるとともに気が引き締まる思いでした。二ツ箭山には周回コースの他に、北に連なる猫鳴山と屹兎屋山を縦走するコースがあるようなので次回はこちらを歩いてみたいと思います。
公式サイト
いわき市史編さん委員会 編『いわき市史』第6巻 (文化),いわき市,1977.3.
いわき地方史研究会 編『いわきの伝説と民話』,いわき地方史研究会,1977.9.